ジャズギター物語!第1章 民衆の生活に根差した楽器 #2

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キタラ


胸に抱く楽器

            by Masa 

 

その昔

数奇な運命を背負った

ジプシーや

ブルースマンたちは

ひとりとして

富めるものはなく

病めるなかで

その楽器を爪引き

怒りの果てにある悲しみを

静かにそして熱く

愛に変えてきた


彼らが

胸に抱いていた楽器こそ

天のように広びろと

地のように大らかに

風のように清すがしく

海のように深い

その響きを通して

ひとびとの心を包み込む

さすらいの楽器

 

それがギター

 

CONTENTS

www.eigonodogutman.com

 

前回のギター物語の第1章をアップした直後に気づいた。

『まずい・・・こ、これは・・・と、とんでもないシリーズを始めてしまった・・・』と。

 

第1章を書き始める前の構想はこうだった。
まずギターとはユニークな楽器であることをマクラとしてスタートして、第2章からジャズギター草創期の始祖鳥的存在である「チャーリー・クリスチャン」、第3章では異色の偉大なるギタリスト「ジャンゴ・ラインハルト」について書こう、と。

 

そして第4章からは、それらの先人たちにインスパイアされたギタリストが続々と出てくる様を、それぞれのギタリストにフォーカスしながら時系列をベースに書こうと漠然と考えていた。

 

それでも連載回数10回は軽々と超え、5万文字以上のシリーズにはなるだろうと。

 

しかし、である。

歴史に残るギタリスト列伝の幕開けのマクラが「ギターという楽器があり、ジャズという音楽で使われ始めました。さて初期の演奏者は・・・」などと簡単に始めることが、よくよく考えれば筆者の性格上できない。

 

人生の元手に向き合ったものとして腰を据えて書くつもりなので、やはりまずはギターというもののルーツから書き起こすべきだという風になってしまう。

ということで、まずギターという不思議で魅力的な楽器の生い立ちを書こうと思うが、これだけでも何回かの分載になりそうだ。

 

それ以降も、チャーリー・クリスチャンはともかくジャンゴ・ラインハルトなどは、到底一回で済むものではない。

そんな訳で10回どころでは終われない、長い長いシリーズになっていくと思う・・・。よっぽどギター音楽やジャズに興味を持つ読者にしか読んでもらえないかもしれないコアな物語になるだろう。

 

まぁ、多様性が世界を彩りゆく時代の流れからすれば、それも悪くないだろう。

ともあれ、本来第2章になる予定であった本稿も、第1章の#2となる。遡って前回は「#1」とタイトルに付加してある。


ギターの語源はギリシャ語の「Kithara」


前置きが長くなったが、そもそもギターとはいつ頃どこで生まれた楽器なのか、どのようにジャズ楽器のひとつになったのかという話を書こう。

 

ギターは弦楽器の中でも、非常に古い歴史を持っている。古代ギリシャ時代には、ハープとともにその原型が存在していた。15世紀頃にスペインに伝わり、16世紀頃には現在のような形になったとされている。

 

余談だが、ジャズでよく使用されるギブソン製のフルアコースティック・ギターやセミアコースティック・ギターの品番は「ES-175」や「ES-335」など「ES」が付いている。これは「エレクトリック・スパニッシュ」の略なのだ。

 

さて、15世紀頃に地中海の北岸を放浪していたジプシーと総称される移動型民族のひとつであるロマ族が、ギリシャからイタリアにも伝わっていたギターの原型を、スペインに持ち込んだ。

 

ロマ族

当時のイタリア語でChitarra(キタラ)と呼ばれていたその楽器の名が訛って伝わり、スペイン語でGuitar(発音はギターラあるいはギターレ)になったとされている。 

ギターと親戚のような弦楽器「ツィター(チター)」もこのイタリア語のChitarraから来ている。ツィターは名優オーソン・ウェルズが主演の名作映画「第三の男」のテーマ曲において、アントン・カラスの演奏で有名になった楽器である。

 

ツィター

ツィター

ところが、イタリア語のChitarra自体にも元があった。ギリシャ語のKithara(キタラ)である。これは「胸」を意味する。

なぜ胸なのか?ギターが現在のようなサイズ感になったのは、スペインで作られるようになってからであり、それ以前はずっと小さく、奏者はそれを胸の前で抱き抱えるように奏でていたのだ。形状も見た目はハープに似ていた。

 

キタラ

キタラ

整理するとギリシャで「胸」という言葉を使って「胸に抱く楽器」という意味からKitharaと呼ばれ、それが訛ってイタリアでChitarraになり、さらに訛ってスペインやポルトガルでGuitarとなったというのだ。

まがりなりにもギターに馴染んできた筆者自身も「胸に抱く楽器」という語源はしっくりくる。

 

地中海で生まれたギター

 

そのギターには、世界の各地に前述のツィターやハープ、あるいはリュートなどの似た楽器があり、それらとのインタラクティブな影響はお互いにあったと思われる。

リュート

リュート

それでもなお、ギターのアイデンティティ自体はギリシャ時代に地中海地方で出来上がっていて、それが徐々に洗練されていって完成したと考えられる。

 

高度な文明が成立する地域には、必ずと言っていいほど高度な文化が誕生する。中でもギリシャ時代は哲学や数学、物理などの学問と同時に、絵画や音楽などの芸術が人類の歴史で初めて急速な進歩を遂げた事実がある。

 

つまりそこには、高い知性に裏付けられた高度な技術が生まれていたということだ。

 

また、地中海の北岸一帯は自然に恵まれていて、現在の弦楽器と呼ばれるもののほとんどはこの時代にこの地方で生まれている。

これはひとえに、この地中海北岸エリアの気候が温暖であり、適度の降雨があることによって、弦楽器を作るために必要な樹木が豊かに採れるからだ。

 

さらには、一方に地中海、一方にアルプス山脈を控えていることにより、木の年輪の出方が地中海側とアルプス側で全く違う。地中海側は年輪の幅が大きく、肥えている。アルプス側は幅が狭く緻密な成長を遂げているである。

 

良質な楽器を作るためには、この緻密な部分が活躍する。バイオリンには歴史に残る名器が多く誕生しているが、それらはほとんどがイタリア製である。

 

それはイタリア人がずば抜けて器用だという理由だけではない。イタリア北部のアルプス地方では、前述のような自然環境により樹木の成長が遅く、より緻密な材木が採れたたからである。

 

このように、楽器を作るために打ってつけの材料と、高度な技術などの、良質な楽器を作るすべての条件が整ったのである。

その技術の中には、動物の体内にあるニカワ質を煮込んで作る接着剤「ニカワ」の製造技術などの多くの卓越した技術が含まれている。

 

古代ギリシャ時代に誕生したギターは、放浪の民族ロマとともに世界に旅立ち、フラメンコをはじめ各地の民衆の音楽に深く入り込んでゆくことになる。

 

 
〜「第1章民衆の生活に根差した楽器 #3」に続く〜