ジャズギター物語!第1章 民衆の生活に根差した楽器 #4

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BBKING

 

ポルトガルと、それに続くスペインの植民地の展開によって、南米や中国、そして北米にもギターが伝わっていった。

アメリカにおいて、フォークソングやカントリー・ミュージックに続いて音楽スタイルを完成させたのがブルースである。ブルースは1863年の奴隷解放後に黒人が、疎外感を歌とギターに託して紡ぎ出した音楽であることは広く知られている。

 

ブルースはギターとともに

初期のブルースはギターの弾き語りスタイルが基本だった。ブルースシンガー&ギタリストとしては、憂歌団の木村充揮が心の師と仰ぐミシシッピ・ジョンハートやブラインド・レモン・ジェファーソン、レッド ベリーなどが輩出する。

この頃、ブルース特有の物悲しいトーンであるブルーノート(音階の第3音と第7音がフラットした音)が生まれた。そのブルーノートが現代の音楽において、極めて重大な要素を担うようになっていくのである。

 

その後、第1次世界大戦を経て、シカゴを中心として「アーバン・ブルース」と呼ばれた都会的なブルースが、ジャズの影響を受けながら広まった。

 

その担い手がT ボーン・ウォーカーやB.B.キング、バディ・ガイやフレディ・キング、アルバート・キング、ローリング・ストーンズに影響を与えたマディー・ウォーターズなどのプレイヤーである。

 

不世出のブルース・ギタリスト

B.B.キングに関しては、もうそれだけで一冊の本でも収まらないぐらいの不世出の偉大なるブルースマンであり、ブルースギタリストである。エリック・クラプトンのスローハンド奏法も、そのお手本は間違いなくBBキングであると断言できる。

 

20世紀後半の音楽界で、ブルースはもちろん、ロックやジャズのギタリストで BB キングの影響を受けていないギタリストはほとんどいないのではないだろうかと思われるくらいである。

いわゆるロック三大ギタリストと言われるエリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ(異説もあるが)はことごとくB.B.キングのプレイにインスパイアされているのは、音を聞けばわかる。


1980年のジョン・ランディス監督によるゴキゲンなアメリカ映画『ブルース・ブラザース』ではB.B.キングとエリック・クラプトンが劇中で一緒に演奏をしている。

 

 

 そしてジェイク・ブルース(ジョン・ベルーシ)とエルウッド・ブルース(ダン・エイクロイド)の兄弟が飛び入りでセッションする名シーンがこれだ。

 

 

余談だが、ジョン・ランディスは翌1981年のホラー映画『狼男アメリカン』で脚光を浴びたのがマイケル・ジャクソンの目に止まり、翌1982年に『スリラー』のプロモーションビデオの監督を務めて全世界を震撼させた。

 

 

『ブルース・ブラザース』には彼ら以外にも レイ・チャールズやチャカ・カーン、ウィルソン・ピケットやアレサ・フランクリン、そしてファンクの帝王JBこと ジェームス・ブラウンなどのそうそうたるミュージシャンが登場している。

ちなみに、映画監督スティーブン・スピルバーグもクック郡収税課職員で出ている。

 

宇崎竜童を泣かせたチョーキング

さて、B.B.キングがデビューしてから、彼を一躍有名にしたのはなんといってもブルース・ミュージックとしての史上初の大ヒット曲「スリル・イズ・ゴーン」である。この泣きのギターは多くの人の胸を揺さぶった。

 

あの宇崎竜童は、若き日にB.B.キングの来日公演に行った。彼はオープニング曲だった「スリル・イズ・ゴーン」の一発目のチョーキングの音色を聴いて、理由はわからないが涙が溢れて仕方がなかったと述懐している。

 

筆者も学生の時に、B.B.キングとフレディ・キングとバディ・ガイという3人の偉大なアーバン・ブルースの旗手が揃って来日した折に、そのゴージャズなコンサートに行くことができた。

それぞれの演奏はたしかに圧巻であったが、やはりB.B.キングは別格だった。

 

晩年の演奏も、圧倒的な貫禄とソウルがこもったプレイに絶句してしまう。

 

 

B.B.キングが愛した「ルシール」

彼は歴代の、使用したそのギターを「ルシール」と名付けていた。

 

最も愛用したギターは1959年に発売されギブソンのES-345(ES=エレクトリック・スパニッシュ)である。セミ・アコースティックギターとして最も有名な名器ES-335の上位機種だ。

ゴージャスなルックスを持っており、パーツ類はゴールドで統一され、ES-335の質素な装飾類も、ES-345では華やかになっている。

 

ES-335になくてES-345の最大の特徴ともいえるのが、バリトーン・スイッチだ。6種類のトーンを選択でき、1から6へ数字が大きくなるにほどローカットの度合いが大きくなって、よりカリカリした音になる。

 

ルシール

 

1959年当時はエフェクターなどなく、ギターはアンプ直結が基本だった。当時のギター・サウンドは、せいぜいアンプのトーンを硬めか柔らかめに設定する程度しかできなかった。

そんな状況でのバリトーン・スイッチはB.B.キングのサウンド作りに大きく貢献するとともに、ギブソンの先進性を示していた。

 

ところで、「ルシール」の由来が興味深い。1940年代に、実際に起きた事件に由来している。

当時、彼が出演したクラブで火災が発生した。彼は燃え盛る炎の中から、なんとか大切なギター(ギブソンES-345ではない)を持ち出すことができた。 

火災の原因は、どうやら二人の男性の「ルシール」という女性をめぐる争いが発端だということがのちに判明する。

 

彼はそのことを知って、女性のために馬鹿げた争いなど起こすまいという戒めを込めて、あえて「ルシール」と名付けたのだ。

 

  
〜ジャズギター物語!第1章 民衆の生活に根差した楽器 #5に続く〜