ビートルズ曲中でクラシックギター歴史的名器にて劇変し情緒溢れる名曲になったのは?

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ビートルズ画像

 

And I Love Her

 1964年2月25日~27日収録

 

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情緒溢れる初期の名曲

 

ビートルズの「アンド・アイ・ラブ・ハー」はアルバム『ア・ハード・デイズ・ナイト』の中でもとりわけ情緒たっぷりで印象深い、ポール・マッカートニーによる曲である。

 

メロディの美しさや甘く切ないボーカル、コーラスラインの秀逸さはもちろんだが、この曲の決め手となるのは何と言ってもジョージ・ハリスンが奏でるガットギターの素晴らしい音色による彩りである。

 

映画『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ! 』の中のテレビ局のシーンでも、スタジオ内でこの曲の演奏をテレビ撮影している部分がある。そこでもジョージがガットギターを、非常に粋な佇まいで奏でている。

 

 

 

当然だが、そのシーンも含めて映画の中の演奏はレコードの音にlip-syncing、口パクでボーカルを(楽器も同じく)合わせて撮影している。

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 完成前のバージョン

 

実はこの曲の完成前のアレンジによるバージョンは、完成形と比べて全然印象が違うのである。このコラムの冒頭にURLを掲載したバージョンがレコード用の完成形である。

 

ぜひ一度、下記のAnthology 1のVersionを聴き比べてみて欲しい。

 

 

どう違うかというと・・・

 

ジョージがガットギータで弾いている印象的な部分が「無い」か「エレキギター」「12弦ギター」にて弾かれていて、最終形を知らなければ決してダメとは思わないが、知ってしまうと、もうまったく完成度が違う。

 

具体的にはまずイントロだが、完成版のガットギターで始まりジョンのギブソンJ-160Eのコード・ストロークが追いかける4小節のイントロも、完成前はガットギターの音は入らず、単にジョンのコード・ストローク2小節のみであり素っ気ない。

 

次に、完成版の2コーラス目から入るガットギターの音色が心に沁みるようなアルペジオ(分散和音)は、完成前はエレキギター(おそらくグレッチ・カントリージェントリマン)で弾かれており、全然印象が違う。

 

そして、完成版のガットギターによるシンプルで味わい深く、優しい弾力性に富んだ音色の間奏は、完成前は同じフレーズがリッケンバッカー360/12、12弦エレキギターで弾かれている。

悪くは無いが、曲想とのマッチングは完成版のガットギターの方が遥かに優れている。

 

さらには、完成版でのサビの「A love like ours could never die」に先駆け小節の頭にボロロンと弾き下ろすコードが非常に効果的だが、完成前はそのサビ自体が無かった。

 

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ビートルズに一番近い男

 

ざっと挙げただけでも、曲の印象を決定づける多くの箇所での効果が違いすぎるのである。

 

さてこのパワーあるガットギターは何者か?

 

実はスペイン製の「ホセ・ラミレス(Jose Ramirez)」という「歴史的名器」の部類に属する高価なギターである。

現在の価格は安いものでも数十万円、高いものは数百万円もする代物だ。それぐらい出してでもその音色が欲しい音楽家がいるという、超ツワモノのギターである。

 

映画の映像の中でホセ・ラミレスを爪弾くジョージがアップとなった時に、ガットギターのサウンドホールから中に貼られている「Jose Ramirez」のロゴが確認できる。

 

このギターをジョージは、ドイツ出身のベーシストにして画家であるクラウス・フォアマン(Klaus Voormann:英語読みでヴーアマンとも呼ばれる)からプレゼントされたのだ。

 

ビートルズはドイツのハンブルグでの巡業中にフォアマンと出会った。その後のフォアマンはビートルズと縁が深く、「ビートルズに一番近い男」と呼ばれている。

ビートルズ中期の名作アルバム『リボルバー』のジャケット・イラストを描いたことでも知られている。

 

ビートルズ画像

 

向かって右下のジョージの頭の上に、顔だけ出している自分自身を描いている茶目っ気のある人物だ。これはすぐにジョン・レノンが気が付いて指摘したそうだ。

 

ラフ段階での『リボリバー』ジャケット・イラスト

 

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フォアマンとアストリッド


クラウス・フォアマンはジョージとリンゴと一緒に同居していた時期もあり、そういう訳でジョージとは特に親密であった。

 

また、ジョンの『Imagine』やジョージの『All Things Must Pass』ヨーコ・オノの『Plastic Ono Band』などの1970年代ロック史上に残るアルバムにベーシストとして参加している。

 

ジョージ・ハリスンと、ジョージが師事したインドのシタール奏者のラヴィ・シャンカールが主宰したバングラデシュのチャリティコンサートにもフォアマンはベースで出演している。

当時は確か音楽ジャーナリズムの中では「クラウス・ブーアマン(ヴではなくブ)」として紹介されていた。

 

余談だが、フォアマンはビートルズとハンブルグの地下にあるクラブで出会った頃、いつも一緒にいたのはアストリッド・キルヒャーだった。

アストリッドは女性写真家であり、彼らに脱リーゼントの髪型を提案した人物だ。そしてフォアマンは彼女の「元カレ」だった。

 

彼女は当時ビートルズのベーシストであった眉目秀麗なスチュアート・サトクリフに惹かれ、サトクリフも彼女に好意以上のものを抱き、二人は恋に落ちる。

サトクリフはその後アストリッドの影響を受け、画家を目指してビートルズを脱退する。

 

その結果、ギターを弾いていたポール・マッカートニーがベースに転向することになる。このあたりの巡り合わせもひとつ違うと、ビートルズの影響力を考えれば、今とは違った歴史の流れになっていたであろう。

 

1961年春にはドイツにてアストリッドと暮らしながら、奨学金を得てハンブルク美術大学に通うが、1964年4月に脳内出血で夭逝することになる。

 

オノ・ヨーコによればジョン・レノンは生前、スチュアート・サトクリフの名を度々口にし、偲んでいたようだ。そしてアストリッドから形見分けされたサトクリフの遺品であるマフラーを、生涯手放さなかったと。

 

ビートルズ画像

サトクリフとアストリッド

ビートルズの「ベイビーズ・イン・ブラック」はサトクリフが急逝して悲しみに明け暮れる「喪に服した(in black)」アストリッドのことを歌った物悲しい曲である。

 

この辺りのことは、いつかアルバム『ビートルズ・フォー・セール』周辺のエピソードを書く時に避けては通れないので、この辺りにしておこう。

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歴史的名器ホセ・ラミレスの威力

 

さて、その「ホセ・ラミレス」の話に戻ろう。

 

クラウス・フォアマンの回想によれば、1963年にスペインのマドリードに行った折に、そのガットギター「ホセ・ラミレス」をとても気にって購入した。

ロンドンに戻って、ジョージ・ハリスンの前でそのギターを弾いた時に、その音色にジョージが「ノックアウト」されたということだ。

 

「だからジョージにあげたんだよ」

超高価なギターを、ジョージが気に入ったからとあっさりと贈呈するとは、やはりビートルズ周辺の人物もただものではない。

 

そのギターを引っさげての収録により、俄然楽曲の彩りが深くなったのはお聴きの通りである。 

 

アレンジとは楽曲を一変させる恐ろしいものだとは分かっていたが、この場合はアレンジ以前に使用楽器の「音色」によって曲想が大いに様変わりした顕著な例だと思う。

 

音楽は奥深い・・・。

 

※ アルバム『ハード・デイズ・ナイト』フルプレイリスト  

※ 筆者のビートルズKindle本

 

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